マフタツ山での二次試験課題を終えた受験生達と二次試験までの試験官をを乗せた飛行船は大空を飛び立ってから早数十分。次の試験会場へと向けて夜空を進行中だ。受験生達は各々つかの間の休息を満喫していた。飛行船内にあるラウンジで一服入れる者もいれば、少しの間だけでも、と睡眠をとる者もいる。休息を満喫しているのは何も生徒達だけではなかった。此処、試験官専用部屋でも一次、二次の試験官達は受験生達と同じ様にくつろいでいた。
「今年の受験生は中々豊作ですね」
紅茶が入ったティーカップを片手にサトツが口を開いた。彼の請け負った一次試験の課題は二次試験会場まで自分に付いて来る事。そこで半数以上の受験者の脱落を予想していたが結果はそうではなかった。半数以上の受験生が一次試験をクリアし、二次試験へと進む事になったのだ。
「サトツさんもそう思う?一度落としといて言うのもなんだけど、結構ツブ揃いだと思うのよね。良いオーラ出してる奴いたし!」
ティーカップを口から離してサトツの会話に便乗したのはメンチ。二次試験の後半の課題を請け負った彼女の試験では一人を除いて一度は全員が不合格となった。だがハンター協会の会長、ネテロの再試験の要求の言葉があり、今この飛行船に乗っている者達は見事メンチの出した第二の課題をクリアした。
「新人(ルーキー)がいいですね、今年は」
「やっぱり?私は294番と、それからあのって子が良いと思うわ。あの子に至っては念まで使えたし!サトツさんは?」
「私は断然99番と、メンチさんと同じでさんですね。あそこまで若い彼女が受験番号1番とは、凄いものです」
「そうよねー。ブハラは?」
メンチは隣で人並み外れた大きさのティーカップで紅茶を飲んでいる二次試験前半の試験官、ブハラに振った。ブハラは少し考える素振りを見せた後にティーカップを机のソーサーに置きながら言った。
「オレもあの子かなー。あの子のブタの丸焼き美味しかったし」
「あんたねえ……」
「…それと、44番。メンチも気付いてたと思うけど、あいつオレ達が出て来てからずっと殺気立ってた」
「私の時もそうでした」
「え、サトツさんの時もなの!?」
まさかあの44番が一次試験からあんなに殺気立っていたとは。あの殺気は自分達試験官を挑発するソレだった。あんな安い挑発には乗りはしないが、向けられて気分の良いものでもない。
「ええ、彼は要注意人物です。それから……」
そこでサトツは言葉の続きを言うのに戸惑った。これは言っても良い事なのか。なんの確証もなく、証拠も不十分。そうだと言い切るには難しい。ましてや今言おうとした事はあくまでも自分の憶測。それを言って此処にいる二人を混乱させる事もあるまい。
「『それから』?」
「…いえ、これはまたの機会にでもしましょう」
試験官達が部下の報告により密航者の情報を手にするのはこの直後の出来事だった。
Es ist eine Klinge im Ziel
標的に刃を向けよ
試験官達が話していた時よりも少し前。一時解散の命を受けたゴンとキルアは機内探検へと繰り出そうとしていた。荷物を壁沿いに置きながら隣で座りこんでいるクラピカ達に一緒に行かないかと問う。
「悪いが、私は遠慮させてもらう…」
「オレもパス…」
二人とも大分お疲れなわけね、と隣で携帯のメールをチェックしながらは思った。自分的にはそれ程疲れる試験ではなかった。これから直に三次試験を始めると言われても全く問題はない。だがそれは自分だからこそ。幻影旅団員兼情報屋をやっている自分だからこそ出来る事だ。それに比べて一般の受験生はまだ念も知らない様な者達だ。疲れて当然だろう。
「じゃあは?」
「ごめん、私もパス。やらなきゃいけない事があるの」
『了解』という文字を携帯で打ちながらそう言うと少し残念そうにしながらもゴンはキルアと共に探検へと出発して行った。は送信ボタンを押すと床に下ろしていた鞄を再び持った。
「、何処かへ行くのか?」
「うん、ちょっとラウンジに行ってくる」
行き先を聞いてきたクラピカに携帯をポケットに仕舞い直して答える。たった今に返信を送り終わったところだった。内容は"言ってた仕事の半分送信完了"との事。それに対しての返信を送り、今からその送られてきた仕事を片付けようと思っている。流石に此処では出来ないので場所はラウンジで。
「そうか」
「じゃ、二人ともゆっくり休んでなねー」
軽く手を振ってその場を後にする。クラピカ達のもとを離れて直に異様な光景を見つけた。否、にとってはもう見慣れてしまったと言ってもよい光景なのだが、他の受験生達は遠巻きに引きつつその光景を見ていた。私は関係無い私は関係無い、と心の中で呪文の様に唱えながらその場を素通りしようとしていたが、その思いは一気に水の泡と化した。
「★」
「…………あんたね、こんな所に来てまで何トランプやってんのよ。なんか、友達いない子が一人で遊んでるみたい」
名前を出されて呼び止められては他人の振りは出来ない。仕方なく盛大に溜息を吐きながら足を止め振り返りながらそう言った。毎度毎度同じ様な事をしていたよく飽きないと思う。トランプのどこがそんなに楽しいのか全くもって解らない。しかも目の前の人物は普通にトランプで遊ぶのではなく、トランプである程度の高さの塔を作り完成したら一気に壊して楽しむというなんとも奇妙な事を毎回している。
「で、何?」
「一緒にトランプでもど「結構です」
ヒソカが最後まで言い終わらないうちに断りの言葉を入れ、再び歩き出した。後ろから残念。、という声が聞こえてきたが無視。何が嬉しくてあんな奇天烈変人な奴と一緒にトランプタワーを作らなければならないのだ。そんな事は絶対にしたくはない。それならフェイタンの拷問を受けた方がまだましだ。
「此処でいっかなー」
ラウンジの中央ら辺に位置するテーブルに座る。そして鞄から一台のノートパソコンを取り出し電源を付ける。デスクトップのメールのアイコンをクリックすると新着メールの文字。から添付されてきた仕事の内容はざっと見五十。最近の売り上げは好調で、今回の仕事も数が多い。何とか次の目的地に着くまでに今回送られてきた仕事だけでも終わらせてしまわないと、次に送られてくる仕事も積み重なりきっと膨大な量になってしまうだろう。それだけは阻止しなければ、と一件一件着実に片付けていった。
「ねえ」
丁度半分くらいの仕事をやり終わったところで前の方から声がした。キーボードを打つ手を止めてパソコンの画面から視線を上げる。と、そこには見た目同い歳くらいの少女が微笑みながら立っていた。深緑の髪を高い位置で二つに結っている。胸に着けている受験番号札は111番。も少女と同じ様に微笑み何か?、と聞き返した。
「此処、座ってもいいかしら?」
「ええ、別に構いませんよ」
周りの席は空席が多い。それなのにわざわざ相席を頼むという事は何か狙いがある筈。けれど見たところ念を使える様には見えないからさほど気にする事はない。いつもの癖で敬語口調になってしまったが別にそうじゃなくともよかったか、と今更ながらに思った。
「私はアニタ。アニタでいいわ。貴女の名前は?」
「、と言います。私の事もと呼んでもらって構わないです」
「解ったわ。ねえ、。貴女って歳幾つ?」
「十六です」
「なんだ、同じ歳じゃない。敬語なんて使わなくていいわよ」
「それじゃ、お言葉に甘えて敬語は無くすわね」
にこりと微笑んでからまたパソコンの画面に視線を戻す。そして止めていた手も再度動かし始める。チラリとパソコンに表示されているデジタル時計を確認すると、仕事を始めてからまだ数十分しか経っていなかった。これならば次の目的地に着く前に余裕で終わらせる事が出来る。今回の依頼は簡単なものが多いようだ。
「さっきから見てたけど、一体何してるの?」
「秘密ー。アニタこそどうしたの?周り空席ばっかりなのに私と相席なんて」
「お邪魔だったかしら?」
「別に大丈夫だけど、ちょっと気になったからさ」
「数少ない女の受験生の中で同じ歳くらいの貴女が丁度此処にいたから友達になろうかと思って」
悪戯っぽくおどけた笑っているが解る。彼女は別にそんな事はこれっぽっちも思っていない。言葉の声色、動作、表情からそう読み取れる。情報屋を見縊るな。これくらいの嘘が見破れなければ情報の収集などやっていけない。狙いは何なのか。私を旅団員だと知って近付いてきたのか。それともだと知り近付いてきたのか。後者に至っては限りなくゼロに近い。毎回として外に出る時は必ず変装し、喋る時も声を変える。よって素顔を知られる可能性も本当の声を聞かれる可能性も皆無。ならば有りえるのは前者。前者だとすれば十中八九復讐絡みだ。
「成る程、それでなわけね」
「そういえば今は一緒にいないんだね」
「一緒にいないって、誰が?」
「…銀髪の子、とか」
銀髪の子、といえばキルアのことだろう。『銀髪の子』と言った時にアニタの目が変わったのを見逃さなかった。怒りを含む瞳だった。もしかしなくともこの少女は自分ではなくキルア狙いなのではないだろうか。自分は一時試験から何かと彼と共にいた気がする。二次試験では他の受験生達が動揺しているのも他者に二人でスシも食べた。自分がキルアの知り合いだと解り近付いてきたと考えるのが妥当なとこだろう。
「ああ、今は黒髪の子と一緒に機内探検してるよ。銀髪の子に何か聞きたい事でもあったの?」
胸中で考えている事は顔にも出さず何気なく話を気き出そうとする。この程度の人間ならば余裕で理由を聞きだせる。此方から少しそれらしい話題を振ってやれば後向こうから勝手に聞いてもない事までも喋ってくれるだろう。
「ええ、まあ少し…」
一体何を、と訪ねようとしたところで自分の名前を前方から呼ばれアニタの時同様にパソコンの画面から視線を上げ、呼ばれたほう好悪を見る。そこには大きく手を振って此方に駆けてくるゴンとその後ろから両手をポケットに突っ込んで歩いてくるキルアの姿があった。
「(ヤバいかもな…)」
アニタの存在はとりあえず大丈夫だろう。キルアもゾルディック家の人間であれば直に彼女の目的に気付く筈。ならば彼の身の心配は無用。問題は今自分がしている事が知られてしまう可能性がある事だ。画面を覗かれたりしたら誤魔化しようがない。だが幾ら目的地に着く前に余裕で終わると言ってもこの先何もなかったらの話し。何かが起こり終わらなかった場合の事を考えると今やっておいた方が得策。覗かれないように注意しなければ。
「二人とも、機内探検は終わったの?」
「まあね。で、。こいつ誰?」
キルアとアニタの視線が合ったのが解った。この態度からすると彼女の目的までは解らなくとも直感的にそれらしいものを感じたと思っていいだろう。さてと、ゾル家自慢の期待の星の実力でも拝見しましょうか。
「アニタっていうの。それより二人とも座ったら?」
「うん、ありがと。あ、アニタさん、オレはゴン!で、そっちがキルア…」
最後の方は声が小さくなってしまったゴンに胸中で苦笑い。自分の隣に腰を下ろしたキルアは体をアニタとは逆の方向に向け背凭れのの上に片腕をを乗せている。まあ、彼らしいといえば彼らしいが。
「…と、ところでは何してるの?」
「秘密。そういえばアニタ。キルアに何か聞きたい事があったんじゃないの?」
「……ええ。でも今はまだいいわ」
「ふーん」
パタンとパソコンを閉じる。残り半分の仕事も簡単な内容ばかりだったのが良かった。本当に余裕で終わらせる事が出来たのだから。はパソコンを鞄の中に仕舞うと何か飲み物でも取ってきてあげる、と言って席を立った。自分も行くと言って立ち上がったゴンを此処で待ってて、と再度席に座らせ飲食物を無料で販売しているカウンタ−へと足を運んだ。
「……そういえば、二次試験の合格者の中にアニタっていたっけ?」
マフタツ山で卵を茹でる段階までいった者は全員合格した。あの中に彼女の姿はあっただろうか。自分は飛行船の入り口付近で受験生達が卵を茹でる様を見ていたが今思い出してみると、彼女の姿はあの中になかったような気がする。だがこの船に乗っているという事は合格者なのだろう。となれば自分の記憶したものが間違っている事になる。
「…………老化現象だ…」
この歳で老化現象が出るなんて…、と本気でショックを受けていると後方から何かを倒した様な音と食器が割れる音が同時に聞こえた。何事かと振り返るとアニタが片手に特殊な形をしたナイフを持ってキルアに襲い掛かろうとしていた。それを何時からその場にいたのか、クラピカがアニタを後ろから押さえて何とか止めようとしていた。近くにはレオリオの姿もある。
「…以外に早かったね、アニタ」
すぐさま常人には見えない様な速さでキルア達のもとまで戻りそう言った。行き成り現れたにその場にいた者全員が驚いた。キルアを除いて。目を見張らなかったキルアに流石、と胸中で呟きながらソファに置いてあった自分の鞄を手に取る。自分達が先程まで使っていた机は倒されティーカップ等も無残に割れて床に転がっている。
「もうちょっとくらいは本性を隠してるだろうなって思ったけど、そうじゃなかったみたいね」
「もしかして、気付いてた?」
「キルアに気付けるんだから私にだって気付けるって」
「なっ、貴女知ってて…!?」
「あんなの、よっぽど馬鹿じゃな人以外誰だって気付くわよ」
ましてや自分は闇世界で生きる人間。あの程度の事が気付けなかったらお先真っ暗だ。何か反抗の言葉を口にしようとしたアニタより先に一応忠告はしておいてあげる、と言葉を発した。
「キルアは貴女なんかより全然強いわよ。止めといたら?どうせ復讐か何かでしょ。無駄死にしたいって言うなら話は別だけど」
これが、先程まで自分と話していた者なのか、とアニタは思った。纏っているオーラが先程とは全くと言っていい程違うのだ。声色や表情は変わらなくとも感じるものが全然違う。それを思うのはアニタだけではなかった。クラピカ達も今までに見たことのないを見ているようだった。キルアだけは違うようで、やっぱりもオレ達と同じだったな、と胸中で呟いた。
「…っ、そんな事、やってみなきゃわからないでしょ!」
「解るから言ってんの。貴女は弱い。話す時、殺気も抑えきれてない貴女がキルアに勝てるわけないじゃない」
「…っ、煩い!!」
クラピカの腕を振り解いてキルアに再度襲い掛かって行ったアニタを見て溜息を零す。そして自分の忌むべき相手が現れた事に対しての溜息も。その相手は今正に降り下ろされたアニタのナイフを彼女達の間に入り指二本で止めた。
「…止めなくてもいいじゃない、ネテロ。アニタの望みなんだし。あんたに関係ないでしょ」
「そうだぜ、じいさん。止めんなよ」
「本来ならばそうするのじゃが、受験番号111番は二次試験追試で失格となっている筈じゃ」
やはり自分の気尾kは正しかった。彼女は不合格者だ。という事は密航者、という事。それならばこの人物が止めに入ったのも頷ける。ネテロにナイフを止められたアニタはその場で脱力し両腕を黒ずくめの男二人に拘束された。そんなアニタをは見下ろしながら言う。
「ねえアニタ。ゾルディック家がどれだけ強いか知ってるの?」
「……貴女に……貴女に私の何が解るのよ!!」
「何も解るわけないでしょ。その憎しみの心だけは解るけどね。同じ復讐者として。それ以外は全く解らないわ」
え、と言って顔を上げたアニタに背中を向けて歩き出す。そうだ。解るわけがない。彼女と自分では復讐の動機が全くと言っていい程違うのだから。
「復讐は、もっと強くなってからをお勧めするよ」
一度足を止め、首だけ後ろに振り返りながらそういった。おまけでウィンクを飛ばしながら。彼も何時かは彼女のように向かってくるのだろうか。自分の大切な者達へ刃を向けるだろうか。有り得ない事だが、もし仲間の誰かが彼に殺されたとしたら私は彼に復讐するだろうか?
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08.05.04 修正完了